観光丸は日本ロケット協会により1993年から研究されている単段式の再使用型軌道旅客機です。 宇宙丸を軌道飛行用に発展させたものが、観光丸となります。 米航空宇宙局(NASA)の宇宙旅行研究においても、観光丸は参照され、観光丸による宇宙旅行研究は世界のトップレベルにあります。 日本が誇るべき宇宙旅客機・観光丸を応援しましょう!! |
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宇宙旅客機の研究 |
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1. はじめに 日本ロケット協会は、糸川英夫氏を中心として1956年に創設されたわが国で最も古い宇宙工学者と宇宙愛好家の団体です。本稿では、この協会が実施した宇宙旅行の研究について紹介します。 1993年に長友信人氏の提唱によって開かれた宇宙旅行研究企画会議がこの研究の発端です。字宙医学の御手洗玄洋、リニアモーターカーの京谷好泰、航空機の鳥養鶴雄、宇宙飛行士の秋山豊寛の各氏によるパネル討論に基づき、研究方針を設定しました。 2. 字宙旅行のニーズとモデル 研究開始に先立ち、パトリック・コリンズ氏が、宇宙旅行についての世界初のアンケート調査を行い、3030人の日本人老若男女からの回答によって、「宇宙に泊まって地球を見たい。そのためには3ヵ月分の収入を支払ってもよい」と考えている人が70%以上いることがわかりました。その後、ドイツ・アメリカ・カナダ・イギリスの調査でも同様な結果が出ています。宇宙旅行の事業化に対するニーズが明らかになったのです。
北海道から出発するとして軌道傾斜角を42°に選ぶと、昼の出発の場合は太平洋と南アメリカを、また夜の出発の場合はアフリカとアジアを各々見ることができます。日本の上空を飛び、地球を2周して出発地へ戻る3時間の旅を標準とします。 航空機と同じように、だれでも普段着で乗れ、事前の訓練は要りません。ただし、上昇中と下降中は航空機よりも厳しい環境です。体重が3倍になり、騒音も10dBほど大きい ですから、ジェットコースタに乗れる程度の体力は必要です。 軌道に着けば、無重力の世界があなたを待っています。シートベルトを外して浮遊しながら、地球の昼と夜、そして星空の景観を窓越しにお楽しみ下さい。地上と電話したり、ソフトドリンクを飲んだり、トイレを使うなど、地球では何でもないことが新しい経験になることでしょう。 室内は、地上と同じ1気圧の新鮮な空気が保たれます。秋山豊寛氏の経験では4時間までは宇宙酔は起こりませんでしたが、念のために座席のヘッドレストを深くし、酔止薬を用意します。
3. 「観光丸」の概念設計 「観光丸」とは日本最初の蒸気船の名前です。幕末にオランダから贈られ、長崎海軍伝習所長の永井玄蕃頭尚志が、中国の易経の句「観国之光…」に因んで命名しました。文明開化の先駆けとなったこの船にあやかり、「宇宙という海原に乗り出して地球や星の光を観る船」という意味で、私達の宇宙機も「観光丸」と呼ぶことにしました。
宇宙旅客機「観光丸」の外形は、直径18m、長さ22mのどんぐり型です。内部は、上から客室・燃料タンク・酸化剤タンク・エンジン室の4層構造になっています。 エンジンは、液体水素を燃料とするロケットで、何時どのエンジンが故障しても安全なように12基を円周上に配置します。このうち、上昇時と下降時に使うブースタ4基はジンバル付きの固定ノズルです。残りのサステナ8基は、大気中と真空中の両方で使うため伸展ノズルを備え、大気圏突入時は蓋で保護します。 大気圏での減速と姿勢制御には4枚のボディフラップを使います。4本の脚は着陸専用です。離陸時は地上設備で機体を支持します。
離陸重量は550tonで、その90%を酸化剤と燃料が占め、着陸時には60tonになります。「観光丸」で宇宙へ行くためには、体重の100倍の酸素が必要です。将来空気吸込み式極超音速エンジンが実現すれば、この値は半減することでしょう。 乗客定員は観光バス並みの50人、乗員は操縦士、スチュワーデス各2人です。客室は2階建で、すべての旅客が座ったままで窓から外が見えるように、客席は外向きで円形に配置します。2階には操縦室と宇宙ホテルヘの出入口が、また1階には離着陸時の出入口2箇所とトイレがあります。無重力遊泳空間は1・2階の吹抜けになっていて、大きな窓がついています。2階の出入口は2重になっており、宇宙服を着れば機外活動もできます。
4. 宇宙港と運用構想 宇宙港すなわち宇宙機の離着陸施設は海上空港の沖合に設けます。その理由は、市街地への騒音の影響が少ないこと、燃料タンカーが停泊できること、旅客の乗換えが便利なことです。「観光丸」が1日に2回運航する場合、加重等価騒音レベル85の範囲は離陸地点を中心とする半径10kmの円になりますから、関西国際空港や中部新国際空港の海側に宇宙港を作ることもできそうです。
「観光丸」は垂直に離着陸するロケットですが、水平に離着陸する航空機と同等の安全性と信頼性を目標にしています。飛行中のどの段階で故障が起きても安全に地球へ帰還できます。軌道へ着くまでの上昇中に機体の一部を切り離す必要はなく、着陸ごとに部品を交換する必要もない単段式完全再使用型のロケットですから、航空機並みの点検・整備方式が適用できます。
5. 宇宙旅行事業計画 「観光丸」の開発・量産における設計・試験・生産などの作業項目について大日程を組みました。飛行試験機は4機作り、3年間に延べ1200回の飛行で安全性と信頼性を確認します。開発開始から7年で量産初号機が完成し、以後6年間に計52機を運航会社へ納入します。
運航会杜が「観光丸」を52機購入して宇宙旅行定期便に就航させる場合の費用を試算しました。各機が年に300便で10年間飛ぶ場合、各便の乗客が45人あれば、搭乗券の値段は295万円で会社の経営が成り立ちます。年間に70万人を運ぶ売上高2兆円の大事業で、関連する宇宙工業・燃料製造・輸送・空港・旅行業などに新しいビジネスを創出します。
6. 事業化への準備 宇宙旅行事業が成り立つためには、社会全体の取決め、すなわち法律が必要です。そこで、航空機の「航空法」に相当する字宙機の「宇宙航行法」の概念について検討しました。「宇宙機の航行の安全および航行に起因する障害の防止を図るための方法を定めることにより、運航事業の秩序を確立し、宇宙活動の発展を図る」ことを目的として、「宇宙機の型式証明・登録・宇宙活動の事業者・従事者・運航の施設・管制」について規定するための第一段階です。 さらに、航空法施行規則「航空機の安全性を確保するための技術上の基準」に相当する「宇宙旅客機の安全性基準」の構成案を作りました。宇宙旅客機に輸送用航空機並みの安全性を持たせるためには、宇宙特有の環境を考慮するとともに、独立した複数の推進系統や旅客の非常脱出用設備など、従来のロケットにない設計思想を導入する必要があります。 宇宙旅行の事業化は、宇宙輸送の商業化が前提となります。これは、一協会がなし得ることではなく、関係業界の理解と協力が不可欠です。そこで、舟津良行氏の提唱により「宇宙旅行事業化研究フォーラム」を開催し、航空・保険・旅行業界などの皆様の参加を得て、これまでの成果をレビューするとともに、事業化のための具体的な方策を研究しました。
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出典:機械の研究 第56巻 第1号 (2004) (株)養賢堂 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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