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有人輸送システム開発に向けて

- 宇宙開発研究者によるパネルディスカッション -


パネラー 稲谷芳文 (宇宙科学研究所)
岩田 勉 (宇宙開発事業団)
木部勢至朗 (航空宇宙技術研究所)
中村浩美 (航空宇宙評論家)
パトリック・コリンズ (麻布大学)
司会 的川泰宜 (宇宙科学研究所)


【小林(宇宙科学研究所)】
 時間が少々おくれましたが、ただいまから、「有人輸送システムの開発に向けて」というタイトルでパネルディスカッションを行いたいと思います。パネリストは今日のプログラムをごらんいただきたいと思います。宇宙研から稲谷さん、宇宙開発事業団から岩田さん、航空宇宙技術研究所から木部さん、それから航空宇宙評論家の中村浩美さん、麻布大学からパトリック・コリンズさんです。司会は宇宙研の的川さんにお願いしたいと思います。また、フロアからもぜひ活発なご意見等を出していただきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。

【的川(宇宙科学研究所)】
 それでは、パネルの司会を仰せつかりましたので、始めたいと思います。事前の打ち合わせが一切ないパネルですので、始まる前にそれぞれの方に5分ないし10分ぐらいずつ、「日本における有人輸送システムの開発に向けて」と題してキーポイントとなる事柄を、まとめて話していただいて、そこの中から少し論点を絞ってパネルディスカッションをしていきたいと思っております。

 皆さん、ご存じの方ばかりだと思いますが、向って左側から稲谷さんは宇宙研で再使用ロケットをやっていらっしゃる。それから岩田さんは宇宙開発事業団で未来システムの開発を、木部さんは本来は構造屋さんなんだそうですが、宇宙インフラ研究会の中では有人のワーキンググループでいろいろと積極的な活動をしてくださいました。中村浩美さんはみなさんご存じの著名な航空宇宙評論家です。宇宙研に来られたのが15年ぶりとおっしゃっています。ハレー探査のころに宇宙研の取材を積極的にやってくださった方です。パトリック・コリンズさん、いま麻布大学にいらっしゃいますけれども、ご存じのようにちょっと我々とは毛色の変わった宇宙開発の経済分析をしていらっしゃいます。

 以上の5人の方で、一応座っている順序でやっていただきたいと思います。私の立場は司会ですけれども、午前中お話があったように、仲間うちでいろいろ愚痴の言い合いというのをやるのもあまり芸のない話ですので、私はどちらかというと今日は有人反対派としての役割を果たそうかと。ですから、有人の反対派と見せつけてわりと本音を言えるんじゃないかと思っているので、いろんな意見が出た場合に、かなり厳しい質問などをするかもしれませんが、私の本意ではありませんのでご容赦願いたいと思います。

 最初に稲谷さんからお願いいたします。

【稲谷(宇宙科学研究所)】
図1 私はほかの先生ほど認識は高くないので、自分でこんなことをやったらいいんじゃないかと言っているだけのことです。どういうゴールを設定するかというための一つの案を午前中に少しお話しました。それでいろいろ言っているけど、何も起きないのは何でだろうかという疑問と有人宇宙活動計画とを結びつけてやったらいいんじゃないかということを少しお話したいと思います。先ほどお見せしたこの図(図1参照)が、現在の需要と未来の需要とをまとめた絵なのですが、これを認めるかどうかという議論は別として、仮にこうだとして、現在から未来へのつなげ方が大変だという話を少しして、そのつなぎに有人が一つの触媒の役割を果たせるのではないかという話を少しします。

 本来は、次のロケットをどうするかというのが我々がもともとやってきた仕事で、それの中身を考えると、繰り返し使用の場合、もちろんその信頼性や安全性は当然必要な技術になる。もちろん性能も上げないといけない。それを同時に実現するのは難しいのでいろいろ苦労している。今のロケットは、とにかくボーンと打って、何か起きたら「止めろ」といって、どかんと爆破するか捨てる……とても人が乗るようなシステムではないと。脱出装置という考えはもちろんあると思いますけれども、そうではなくて、何か起きても安全に戻ってくると、そういうシステムにしようというのが再使用の考え方であります。その自然な発展として、次にじゃ人が乗ればいいじゃないかというふうになれば、これはもちろんハッピーなんですけれども、先ほどらい申していますように、再使用だけで何かやらせてくれというのは、なかなか辛いところがあるのです。そこで有人とどうやって引っつけたらいいかということを考えています。

 今も言いましたように、要するにロケットの信頼性を上げるということは、故障する確率をできるだけ減らすということ、つまり99を99.9にしたり、99.99にしたり99.999にしろというのが現在のロケット設計の考え方です。人が乗っているものは、そうではなくて、もちろんそれぞれのサブシステムの故障の確率は少ないほうがいいですが、仮に故障が起きたとしてもそれで全て終わりですよというシステムではなくて、何とかするというシステムにしておけと。そういうことが使い捨てのシステムと再使用のシステムの違いだろうと考えます。当然これは延長として人が乗るということに発展していくものであるという前提に立っているわけです。ですから、図式としてはこういうふう(図1)になればいいと。

 ではどうするかと、後でちょっと絵をお見せしますけれども、今例えばロケットをつくりまして、これに人が乗っていいんですか。いや分りません。何でですか。基準がないから、という話に多分なると思います。基準はどこから来るのか、待っていても出てこないから自分でつくらないといけない。「どうやったら人を乗せられるか」をまじめに考えることが、当然そのシステムについて考えることにつながります。ですから、そういう仕事を早くスタートしておかないと、明日、人が乗るものをつくれと言われてもつくれない。そのための準備やStudyがたくさんいるということをここでは申し上げておきます。特に、仕様がないものは設計しようとしてもつくれませんから、その仕様はどうやって決めるかというStudyが必ず要るであろうというふうに思います。

 もう一つは、開発の段階的な考慮です。先ほどの講演でもお話がありましたが、いきなり軌道に行けといわれると非常に大きなお金がかかってしまいます。使い捨てでもいいから行っちゃえというのが、先ほどの帰還カプセルを提案された方のお話だったとすると、これは再使用と有人とをカップルさせないという立場に立っていらっしゃるわけです。最初のステップとしては小さいものでもいいから、再使用の研究をしていって自然に有人になるという僕のイメージでは、カプセル方式の考えは取りません。いきなり大金が使える場合、あるいは使い捨てでもいいから行っちゃえというような場合と比べて、こういうアプローチはどう違うのでしょうか。これは先ほどCRLの方から、「長い20年先のゴールだけ提示して、これ全部セットで認めろ」というのはだめだ、というお話がありました。我々もこの一、二年、役所も含めてお話しているとなかなかそれは難しい。やっぱり区切りをつけて、3年でも5年でもいいから成果を出して、それで次をさらに加速する、そういうステップを踏むというのが私の考えです。例えば最初の5年でとにかく行ったり来たりするロケットでもつくり、次はそれをいろいろ勉強した結果を考慮して、有人の仕様にするにはどんなふうにするのが良いか、という風に進むわけです。一回再使用のものをつくってみよう。うまくできたら人が乗ればいいという感じで、段階的にステップを踏むのです。

 パイロットか旅客かという議論に関わる話をしましょう。例えば再使用ロケットのグループの中で有人をどうするかという議論をすると、私たちは別に有人はやりたくない、そのエンジンをやりたい、材料をやりたい、などとそれぞれおっしゃいます。そういう人が集まって議論すると、全部でき上がってから人が乗ればいいんで、最後の目標にするのは結構だけれども、最初から人を乗せるなんて言っておれたちのやりたい領域を減らさないでくれというような議論が出ることがあります。でもみんなの意見をまとめて前に進みたいといっても、だれも交渉してくれなかったら何も起きない。そこをどうするべきか、あるいは両方のバランスが当然あるのかもしれませんが、例えば最初から人を乗せていくという考えかたを取ると、先程のステップを踏むという道があるんじゃないか。

図2 図3 それから当然、飛行機の世界とか実験機の世界での話をいろいろ聞くと、これはもう何十年も前ですけれども、アメリカのX-15という機体(図2)には、有人の開発の最初のイメージというのはこんなんじゃないかと思わせるものがあります。お客さんを最初から5人乗せるというのはどうやってやるのか、私はその具体的なイメージを描くことはできませんが、最初はやはりテストパイロット(ファーストクラスエアマンと呼ぶ人らしいですけれども)たちが乗って、システムはこんな程度で大丈夫だというのを見せることが先で、お客さんが乗るのはもっと先の話。ただし、人が乗る技術というか、その人たちの安全を確立させていくことが必要である。X-15というのは、高度を100キロ以上まで飛びましたが、これはX-15のコックピットから見た絵です(図3)。

極論しますと、こういう研究をしたい、こういう材料をつくりたい、こういう新しいエンジンをつくりたい、そういう人たちが幾ら集まっても、多分大きなシステム開発の話にすることは難しくて、何か別の観点から目標を掲げることが大事だと思います。技術の立場だけから言うと、それは本意ではないという人もいるかも知れませんが、その本意だけを言っている人たちだけでは何も立ち上がらなかったというのが今までの事実です。その意味から言って、有人というのは一つの目標になりうるし、意義が高いんではないかと思います。普段私が言っていることをちょっと脱線ぎみに申し上げると、とにかくものをボンと飛ばすと世の中盛り上がる。午前中の話で世の中を盛り上げる方法がないかというお話をしましたけれども、結局税金を下さいといって霞ヶ関を廻るという、そのタクティクスをどうこうすることよりも、遠回りであっても世の中にそういうことの可龍性を示すということが今大事ではないかと思います。

今、僕らはこんなことをやって飛ばしています(図4)。宣伝みたいで恐縮ですが、これを一般の人に見せると大変喜ばれます。そして、次はどこまで飛ぶんだと必ず聞かれます。そのまた次はいつ人を乗せるかと必ず聞かれる。午後の話の中に、世間の期待と宇宙部落との違いというのがあったと思いますが、ロケットはロケット屋だけで考えているとなかなか前に進めません。ロケット屋だけじゃないサークルでその辺を考えなきゃいけないというふうに思いました。討論の出だしで、このような話でよかったのか悪かったのかわかりません。いろんな視点があるかと思いますが、整理は的川さん、お願いします。

【的川】
 1つだけ質問したいんですけれども、それぞれの専門家が集まっても有人をやろうというところへ盛り上がっていかない。いろいろこれまでやってきたけれども何も起きていないはどうしてだろうかという問題提起が最初にあったんですけれども、それはトップダウンでそういうことは決定すべきだというお考えですか。

【稲谷】
 午前中の棚次先生の講演趣旨に近いところがありますけれども。要するにやりたい人は沢山いて、ボトムアップがあって、それを選ぶというディシジョンメーキングのプロセス、これが両方とも機能したときに初めてうまく機能する。日本の場合、ボトムアップの図式は日本全国万遍なくあるか、宇宙3機関の中で万遍なくあるかどうかということ、ここもちょっと皆さんのご意見を聞きたいと思いますし、先の話で棚次先生が、上のディシジョンメーキングが機能していないんだとおっしゃったのとイコールではないかと思います。そのとおりの言葉でおっしゃられなかったかもしれませんが。

【的川】  いろいろやっていても何も起きなかったのはトップが悪いと。

【稲谷】  Partly Yes.

【的川】  はい、わかりました。では、岩田さん、お願いします。

【岩田(宇宙開発事業団)】
 私は的川先生よりもっとひどくて、ぜんぜん用意していなかったので、今ちょっとメモを作ったところです。宇宙開発事業団では、企画調整部長と兼務で先端ミッション研究センター長をしてます。一応、先に講演した野田君のスーパーバイザーの立場なので、この話を弁護する立場でお話した方がわかりやすいし面白いだろうと思います。そういう立場でこのパネルをやらせていただきます。去年というか先月の新聞に出たところによると、この野田構想というか先端ミッションセンター構想が宇宙開発事業団の構想と書いてありますが、間違いです。宇宙開発事業団は関知しない、といいますか、先端ミッション研究センターとしても関知しないと言ってもいいくらいです。いくつか出したフラグシップミッションのアイディアの一つでして、結構いけるじゃないかというので推奨はしました。今いろんな意味で組織統合ばかりじゃなくて、世界的に宇宙開発自体が曲がり角に来ている。もちろん日本経済も曲がり角になっているので目立たないんですが、宇宙開発も大きくパラダイムシフトが求められているというのが、フラグシップミッションという掛け声が出てきた所以でして、ご存知の通り、宇宙開発委員会でも先導的基幹プログラムというので検討が始まっています。つまり、私ども3機関が一緒になって独立行政法人になる。航空宇宙技術研究所は既になっておりますが、そうなると、20年先、30年先どころか、5年先に成果を出さないといけないのだそうで、ずっと10年ぐらい待ってくれというのはなかなか通らないという話です。成果が明らかにできないような研究というのは認められない、リストラに遭う、というのが独立行政法人の世界だそうで、そうなってくると10年以内に結果を出せるようなフラッグシッププログラムを作らなければならない。そうしないとまたリストラだよということになって、リストラスパイラルに入ってしまう。そして、現在我々がこんな話をしているのだからあまり結果が期待できない点もあるんですが、先導的基幹プログラムというのでいい話が出てこないと、これはもう一回別のシステムでやろう、いやもっと国民一般にアイディアを公募しようとか、当然そういう話が出てきて、また繰り返されるわけです。稲谷先生が言っておられたような、トップのディシジョンメーキングがだめだとか、ますます組織全体が宇宙開発委員会も含めて信頼がなくなってくるという、まずい状況があるかなあというのが一般的な認識です。そんなことを今さら言うなというくらい皆さんご存知と思うんですが、そこで先の先端技術ミッション研究センターの構想ですが、まずパラダイムシフト、今まであまり皆さん言い出していないことで、しかも10年以内にできるようなこと、広い意味で国民に売りつけられるといいますか、少しは関心を持ってもらえるというもの、そういう観点から、さきの構想は結構おもしろいんじゃないかなと思います。

 まず、日本では有人宇宙飛行は無理だと考えられているようです。宇宙旅行じゃなくてですよ。日本人が自分の作った乗り物に乗って行くと言うだけで、無理だというのがいつの間にか国民に教え込まれてしまっています。有人は金がかかって、政府の緊急財政の折りに宇宙開発なんて金がかかるからやめろというような意見を抑えるために、「我々はあまり有人はやりませんからお金かかりませんよ、実際に役に立つところだけうまいことやっている宇宙開発だから。」というような説得をしてきた面があって、だから私も含めて宇宙開発部落の人たちも責任があると思います。さっき、コロンブスの卵じゃないけど、カプセルと使い捨てができるという当たり前のような話をしただけだと思うんですが、ここでは「お金がかかる」という問題がクリアできます。「大変だ、危ないじゃないか、人が怪我したり死んじゃったりするんじゃないか。」という点についても、もっと詳しく話しないとだめなんでしょうけど、それはクリアできると思います。

 最後の問題は、「役に立つのか」ということ。役に立つのかというのは、宇宙観光の話をした途端に、これからコリンズさんがお話しするかもしれませんが、「やっぱりちょっと高くて無理じゃないか。」とかの話が出てきて宇宙観光商業化も難しいところがあると思います。ここがクリアできれば、いま正直言ってアイディアがあるわけではないんですが、商業化に結びつける話はできると思います。そして「政府がなんでこんなところにかかわらなければならないか。」という話ですね、ここが一番大事だけど、そこがはっきりしていない。うまく言えていないと思います。もう一つは、今のローテクのカプセルの話はつまらないですね。技術的につまらないんです。しかし、先ほど野田君が触れていたけどもし技術的におもしろい、例えば、成果として出来上がったものがピンポイントランディングで相模原とつくばに降りてこれるよとか、そういうことがはっきり言えるんだったらば、それはそれで技術的な先端性がある。宇宙のグローブボックスをつくって、人間が宇宙服を着なくてもロボットなんかより余程いい仕事が、宇宙ステーションでできると言うんだったら、それは技術的先端性がある。そういうところがまだ詰められていなくて、皆さんは本当かな、というところがあると思います。ただ、希望はあるのでもうちょっと考えていってもいいかなと。私は野田君の上司でもあるという立場もあるんですが、このアイディアをサポートします。

【的川】
 稲谷さんの発言と総合すると、宇宙の現場の人間にも責任があるとおっしゃったので、宇宙の現場でしっかりしたビジョンを示せば、さっきのトップダウンのトップを動かすことができると、岩田さん、お思いですか? 有人に関しては。

【岩田】
 トップになったことがないのでわからないんですが、トップの人は、多分、自分の趣味で決めているのでも、自分の信念で決めているのでもなくて、たぶん、国民に納得してもらえるかという点で、どうしようかということを決定するでしょうから、結局は国民一般、国民にも色々あるけれど、難しいことは抜きにして、いわゆる国民一般にいかに受け入れられるかだと思います。

【的川】 はい、ありがとうございました。次は木部さん、お願いします。

【木部(航空宇宙技術研究所)】
 航空宇宙技術研究所の木部でございます。私は稲谷先生ほど準備がよくなくて、岩田さんほどずぼらじゃなくて、2枚だけ図表を用意してきました。私自身は、輸送系というものに関してはほとんどかかわってきていない人間でありまして、なぜここに呼ばれたのかよくわからないんでありますが、ただ有人に関しては大分昔から興味を持って研究というレベルで活動を行ってきましたので、その観点から少しお話をできたらいいなと思っております。
 
○有人宇宙開発は是か非か?
 
○是であるとすれば、如何に進めるか?
  基盤技術開発−大規模開発プログラム
 
  以下の観点からの重点化が必要。
国の責任として実施すべき分野…………?
世界に先行する技術基盤があり、将来我が国のバーゲニングパワーとなり得る分野…………?
我が国の科学技術/産業戦略上枢要となる分野…………?
(図5)
 最初に(図5)、ちょっと1行だけ見せますが、有人宇宙開発は是か非かという話。これは一番、今日のテーマよりもっと根本的な、問いであろうかというふうに思っております。これに関しては従来より国内、それから国外で非常に広範な議論が繰り広げられまして、もう大方語り尽くされたというか、あまり新しいことはだれも言い出さなくなってしまった感があります。ただ、その状況であるにもかかわらず、我が国においては依然として有人宇宙開発に踏み込めないところが、やっぱり一つの大きな問題かなと。その議論としては、非常に高度に政治的な、国防とかいろんな面の議論もありますし、一番わけがわからない、人類の将来にかかわる高邁な議論というレベルまでございます。有人にしろ無人にしろ、宇宙開発というもの自体が進むのであれば、有人と無人をことさらに区別する必要はなく、無人でできるところは無人でやる、有人でなければならないところは有人でやるというのが原則であります。これは当たり前の話ですが。

 ただ一方、無人がいいといういろんな理由がございます。経済的な理由もありますし、自分でやりたいことができない、できなくなるという可能性を危惧しての発言もありますが、例えば科学を、サイエンスをやっていらっしゃる方、サイエンスにとっては有人は邪魔者であって、一向に益するところはないんだとおっしゃいます。科学自体は宇宙開発の一つの大きなドライビングファクターだということは重々承知した上で、ただ私自身、宇宙開発というもの自体が、宇宙科学だけ、スペースサイエンスだけではないと。つまり、もっとより大きな内容を含んだ、いわば科学技術というものを手に入れた人類が、その人類の営みの一つとして宇宙開発をやるんだというふうに考えたときに、我々が実際に宇宙に出ないということがあり得るんだろうか。むしろ出るほうが自然なのではないかと考えます。そういう非常に広い意味での人類のなりわいということに対して私は魅力を感じますし、できればそれに対して寄与したいというふうに思っております。この辺に関して今ここで議論しても結論の出る話ではありませんので、次に移ります。

 次に、是か非か、非は知りませんが、是であるとすれば、ではどのようにして進めたらいいのかということであります。これは2つのレベルで考えなければいけない。是であるとした上ではこれ以降の議論というのは比較的ロジカルではあります。基盤技術開発という、つまり有人宇宙技術の基盤技術開発という部分と、それから大規模開発プログラムという部分を階層的に分けて考えなければいけないかなというふうに思っております。大規模開発プログラムについては後でもうちょっと詳しくお話ししますが、基盤技術開発というのは、つまり我が国として有人のいかなる技術を確保していくのかということにつながります。

 ご存じのように数十年来、米ソで莫大な予算と人的な資源を投入して有人技術が培われてきたのですが、それらをすべて我が国がこれから保有するという状況は、今の経済的な状況等を考えた上で、これは不可能であるというふうに私は思います。多分皆さんの大多数の方もそれについて異議を唱える方はいらっしゃらないと思います。であれば、その基盤技術開発にしろ、何らかの意味で重点化ということが必要になってくる。ここまでも多分ご異存のないところというふうに思っております。

 じゃどこを重点化するか、重点化するという総論には賛成だけれども、どこを重点化するかという各論に対しては、これは非常に意見が分かれるところではあります。従来議論されてきたものを整理すると、一つは国の責任として実施すべき分野というのがあります。これはちょっとわかりにくいのですが、今、宇宙ステーションというプログラムが走っております。日本人の宇宙飛行士が行きます。シャトルに乗って行って実験する場合もありますが、その場合、日本の宇宙飛行士の健康、それから安全にかかわることに関してはやはり国に責任があるのではないか。例えば事故が起きたとします。死んでしまいましたよくよく調べたら、この設計の基準がおかしかった、だけど現状では日本として、あるいは事業団として言えるのは、NASAがいいと言ったんだというしかないわけです。それではやはりいかんのであって、その辺のところを、具体的に言いますと、例えば宇宙船の中の大気環境を規定するSMACという基準があります。スペース・マキシマム・アローワブル・コンテンツというんですが、それは私どもから見れば体格の大きなアメリカ人を基準にして決めたものです。いろんな大気成分についてどれぐらいのパーセンテージであれば大丈夫か、というようなところを決めたものです。しかし、それは華著な日本人にとって十分であるのかどうか、怪しいところがあります。ですから、そこのところは丹念に国の責任としてやらなければいかんだろうということです。

 それから2番目、日本には世界に先行する技術基盤がある、もしくはあると世界的に思われている分野(実態はどうか知りませんが)がある。将来、我が国の有人活動のバーニングパワーとなり得る分野ということであります。そうだそうだと言われる方は多分いらっしゃると思いますが、私の想定しているものに関して言うと、それは循環型の生命維持技術とロボットであります。ロボットも有人対応型、有人支援型のロボットであります。セルス(CELSS)といわれているものは、有人活動というと必ず出てくる話題ではあります。ただロボットに関しては、今のロボット、地上のロボットを含めて、おそらくすぐ隣に人間がいて作業するというようなことは想定していないというふうに聞いております。ですから、例えばそのロボットに対して指令を行う場合にどういう形態がよいのか、そこでキーボードをたたくわけにはいきませんので、当然そこには自然言語理解というものがありますし、安全、セーフティーゾーンの確保ということもありますし、いろんなロボティクスの応用が出てくる。つまり有人対応型のロボットでもって有人技術にコントリビュートしたらどうかと。これらの先行する技術分野はバーニングパワーとなるのではないかと思っております。

 最後になりますが、我が国の科学技術、産業戦路上、枢要となる分野という話であります。ここでやっと今日の主題であります有人輸送系という話が出てくるわけでありますが、完全再使用の有人の輸送系というのは、私の認識の中では科学技術の政策、戦略上のモチベーションとしてしか、あり得ないというふうに思っております。

○具体的に何を目指すか?
  ・宇宙ステーション及びその発展としての有人支援型施設
  ・月面基地建設
  ・火星有人探査
  ・宇宙観光・ホテル
  …………
……
 
我が国が再使用型有人宇宙輸送機の開発に着手する積極的ロジックは、我が国宇宙開発活動の中には存在しない。
(図6)

 輸送系の話は別にしまして、有人プログラムで何を目指すのかというような話で、幾つかこんなふうなもの(図6)が今議論されてはおります。この中で私自身、個人的には、宇宙観光、それから宇宙ホテルというのはある意味で筋がいいかなと思っております。というのは、言いわけをする必要はないからであります。つまり宇宙観光は地上でもそうですけれども、そこに行くこと、そこに人間が存在することだけが意味があるわけでして、それ以外の説明は何も要しないというところであります。

ただ、こうしてずらずら書き並べてみて、それから今日本が持っている宇宙開発計画をつらつら考えてみますと、結論としてはこういうことになります。つまり我が国が再使用型有人宇宙輸送系の開発に着手する積極的なロジックは、我が国の宇宙開発計画の中には存在しない。いまは20年、30年先のビジョンを実現するために、今から着手する、いや着手しないで切歯扼腕している、そういう状況にあります。しかしながらやはり、先ほどの稲谷先生もおっしゃいましたが、10年とか20年とか、そういうステップ・バイ・ステップで目標を設定するという意味では、とにかくスタートしなければいけない。つまり最終ゴールは隠してでも、とにかくスタートしたいというところが本音だというふうに思っています。そのためには、今、私の得た結論は我が国の宇宙開発計画の中には存在しないのであれば、別のロジックを考える必要があるのではないでしょうか、ということです。そういう工夫をする必要が、有人輸送系、再使用輸送系の方々にはあるのではないでしょうか。1つは、例えば今は「地上から宇宙へ」のトランスポーテーションということを考えて議論されているわけですけれども、それが例えばもし20年かかるのであれば、その中間的な10年のところに「地上から地上へ」のトランスポーテーションというようなものも考えるというぐらいの工夫はあり得るという気がいたします。

 ちょっとこの辺、門外漢で、とんちんかんなことを言っているかもしれません。以上、こんなことを考えてみました。

【的川】  はい、ありがとうございました。それでは中村さん、お願いできますか。

【中村(航空宇宙評論家)】
 ご紹介いただきました中村浩美でございます。今日皆さん、承りますと午前中からまじめにいろいろ議論されたり、意見発表されたりしていたようでございますが、私は技術、サイエンスともに専門家ではない、単なる日本の宇宙計画の応援団のやじ馬でございますので、これから何を言うか自分でもあまり責任を持てないんですが。

 はっきり言って全然盛り上がっていませんね。今日の催し物、もっと盛り上がっていると思って来たんですけれど、全然盛り上がっていない。なぜかというと日本の宇宙計画が盛り上がっていないからだと思わざるを得ないんですが、という嫌みなことから始めますけれども。日本の宇宙計画は、私が思うに、国民の共同幻想の上に今のところ成り立っていると。幻想なんですね、国民が考えている日本の宇宙計画というのは。幻想なものですから、宇宙をやっている皆さんは今まで深刻な試練にさらされたことが、おそらくないと思うんですね。同じ科学技術の分野でも、例えば原子力であるとか、例えばバイオテクノロジーであるとか、かなりシリアスな試練の場に立たされている分野が多々あると思うんですけれども、宇宙はほとんどそういう深刻な試練にさらされないできていると私は思っています。それは国民が幻想を抱いているからでありまして、ということは、逆にいいますと、関心も支持も大して得ていないということに等しいわけですよね。これがやっぱり最大の問題で、多分、午前中から、世の中を盛り上げたいし、日本に元気をつけたいし、もちろん宇宙計画そのものも活性化したいということで、皆さん発表されたり議論をされたりしたと思うんです。しかし、宇宙のことをこれから考えていくためには、皆さんは単にビレッジの中で一生懸命やってきただけであって、その外側というのが幻想共同体でしかないというところを、まずしっかり認識していただきたい、というのが私の最大の希望なんですね。

 的川先生とも数年前からいろんなところでご一緒しておりますけれども、とにかくなぜ日本が宇宙をやるかとか、わかっていないですよ、まず、国民の皆さんがわかっていないと同時に、今のところ大して関心も持っていないんですよ。というめは、よく見えないんですね。よく見えない最大のポイントは、というあたりで強引に今日のテーマにもっていこうと思うんですけれども。やっぱり有人宇宙開発がオリジナルでないというのは、致命的なのかなという感じを持っています。最初に言ったことに付言しますと、私も一生懸命になってISASの宇宙探査のこととか、NASDAの宇宙開発とか宇宙環境利用のこと、子供たちから大人たち、最近時間とお金とゆとりのある年配の方たちのカルチャースクールに至るまで、いろんなところでお話しするんですけれども、その場では皆さん面白いと言ってくれるんですけれども、立花隆さんと的川先生が書かれた本は別かもしれませんけれども、一般的に宇宙開発関係の本なんてほとんど売れないんです。私も何冊か書きましたけれども、ベストセラーになったためしがない。飛行機はまだあるんですよ。飛行機はまだ、私でも5版とか7版とか重ねて何万部か売れるというのはあるんですけれども、宇宙はどんなに一生懸命本を書いても売れない。これは何かというと、「宇宙ですか、いいですね、夢があって」と言ってくれるんですが、それから先に行かないんですよ。「夢があっていいですね」というところで終わってしまっているから、逆に言うと厳しい試練にもさらされないわけですよ。

 これは、安全基準とかその類いのものは全く違うので例えにするのはおかしいかもしれませんが、たまたま最近エネルギーの仕事が多くて、原子力とつき合っているものですから、原子力と宇宙開発を比較すると痛切に感じるんです。もしも原子力発電所が外部に大量の放射能を漏出するようなことを起こしたらもう大変なことですよね。そうでなくても、原子力発電所やめろとか原子力は要らないとかという声がたくさんある中で。ところがロケットは、H2もミューも失敗したって、もうやめろとだれも言わないじゃないですか。その程度なんですよ、やっぱり。これが、とんでもないと、世論を二分するぐらい、やっぱり宇宙開発やるべきかやらざるべきか、NASDAにロケットは任せておいていいのか、ISASは何をやっているんだ、という話にならなきゃいけないんですね、ほんとうは。新聞の扱いは多少大きいかもしれませんけれども、根本的な議論になるような場面は全然ないわけで、それは、まあ夢がありますからね、多少のトラブルはいいでしょう、年間予算を考えたってせいぜい3,000億かそんなものでしょう、と。いや、3,000億なんてだれも知らないですけれどもね。一般の方々は日本は宇宙開発に1兆円も使っているなんて多分思っていますよ。でも、その1兆円ぐらいはいいや、夢食べてんだから、という感じだと思うんです。それではやっぱりだめなんだろうというのが私の基本的な考え方でありまして、先ほども言いましたように、やはり有人宇宙開発については、これは推進するしかないでしょうというのが素直なところです。しかし、今までもお話がありましたように、日本の宇宙計画は国費をいかに波風が立たないように上手にかすめ取って、そして霞ヶ関が要求する答えをなるべく短期間にそれらしく見せてそれで継続していこうという、姑息な計画でしかなかったわけです。その背景には共同幻想があって、「まあ夢がありますからね」という国民に支えられていたわけです。でもそのような国民の支えというのは、ほんとうの支えでは全然ないわけで、ほとんど無関心に近い支持でしかないというふうに考えたほうがいいと思います。

 これからは、やはりみんなで「ほら」を吹くべきなんですよ。ほらを吹いているうちにそのほらというのは実現せざるを得なくなってきますから、それをやっていこうじゃありませんか、というのが私の提案でございます。インフラ整備というのは国の責任だと基本的に私は思っていますから、宇宙開発について、例えば輸送系インフラというのがほんとうにインフラであるならば、ある程度当然国費を投じてやらなければいけない国家目標にすべきだと思っております。けれども、これからの日本の経済を考えると、あまり国費は期待できないかもしれない。そのときにほらを吹いてどうするんだということになると思いますが、先ほど通総研の富田先生がおっしゃっていましたけれども、私も、ほらを吹くならみんなを巻き込むほらを吹いて、どんどんベンチャー企業が立ち上がるような環境をつくることのほうがいいんじゃないかと思うんです。皆さんが研究をされたり開発をされたりするのは、一生懸命やっていただくとして、世間を盛り上げるためには、やっぱり商業化というようなことをどんどん打ち出さないとだめなんだろうと思います。そのための手段というのはいろいろあると思います。共同出資で株式会杜をつくるのもいいと思いますし、何か投資信託の対象にするという手も多分あるでしょうし、そんなことで、簡単に言うと宇宙観光ということになると思うんですが、観光までしなくたっていいんですよ。観光までしなくたっていいんですが、つまりは商業化によって、選ばれた特定の人間ではない普通の人が宇宙に行って滞在して帰ってくるという、その事実の積み重ねがやっぱり一番大事だと思うんです。

 間もなくオリンピックがありますし、今年はワールドカップイヤーでもあるわけですが、よく私は宇宙計画と、ああいうオリンピックやワールドカップのような国際的なスポーツイベントの間に無理やりアナロジーを見つけ出すんです。当然関心をもつ第一はナショナリズムですよ。日の丸を上げてほしいというのが当然あって、そこからまず関心がわいてくるわけですよね。やっぱり日の丸を見せないことには盛り上がらないなというのがまず第一。ところが実際始まってみますと、例えば日本でやった長野オリンピックを思い出してみても、確かに最初は、いつ日の丸が上がるかという、そこに最大の関心がいくわけですが、次第に、日の丸が上がることも大事なんですけれども、同じ人類であるアスリートが、人類の極限に向かって挑戦していく姿にだんだんみんな感動していくわけです。それを共有できることのすばらしさというのに気がついてくるわけで、宇宙開発は多分非常に似ていると思うんです。宇宙はこれまではごく限られた人たちが、人類の代表として行くものだったわけです。いつまでたっても日の丸は見えなかったわけですが、アポロのときは私もそうだったのですが、やっぱり同じ人類として感動しましたよね。星条旗を持って月に行くわけですから、これはもうアメリカのイベント以外の何ものでもないですけれども。それがだんだん、身近なところへやってくると、去年のチトーさんの例がありますし、今度南アフリカの青年もやっぱりソユーズでISSに行くらしい。お金を払って行けるんだというのは、スーパーマンではないということですから、ずいぶん僕は身近になってきたというふうに思うんです、それが25億円であっても。それがさらに身近になってくると、先ほど最後のご発表でカプセルのお話になっていましたけれども、3億円ぐらいならもう堂々とした一般化ではないかと私は思います。だんだん話が支離滅裂になってきましたが、私の感覚では3億円というと、来年か再来年の年末ジャンボ宝くじで一等は「3億円あるいは(5年と言いたいところですけれども)7年以内に宇宙旅行」のどちらか選択できます、というぐらいのところまで状況はもうなってきているんではないかなと思います。

 私は飛行機関連をやっていますけれども、飛行機だとせいぜいファーストクラスで世界一周したって大したことないんですが、最近注目されているのは豪華客船なんです。日本にも「飛鳥」という客船がありますけれども、私も真ん中ぐらいのクラスで2週間ぐらいクルーズをやってみましたが、あれも世界一周クルーズ93日間というのがあるんですが、その一番高い部屋というのは2,000万円なんです。これがクルーズを発表すると最初に売り切れるんです。93日間2,000万円払って、しかもご夫婦で4,000万円ですけれども、それが最初に売れちゃうんです。それを考えたら、3億円から5億円程度の宇宙旅行というのはやはりニーズはあるんじゃないかなと私は思っています。今はできないだろうと思っているから盛り上がらないんで、できますよ。3億円となれば、盛り上がり方が違ってくる。今の25億円、チトーさんはちょっとなーと思いますけれども、3億円、5億円ということになると完全に不可能な数字ではないわけです。そのために奥さんに高い保険金を掛けて保険金殺人なんてことになると困りますけれども。ともかく、それぐらいのレベルになると、自分で行けなくてもほぼ同じレベルのラッキーなやつが行ったとなると、さっきのオリンピックの話に戻りますが、すばらしいアスリートの技術に感激しているのと同じで、それは次に日の丸になってきて、日の丸になってきたら、それは隣のお兄ちゃんかもしれないわけじゃないですか。隣のお兄ちゃんなんだけど、すごいことをやったよということになってくるわけで、それを考えていくと、ロジックは逆かも知れませんが、私は10億円を切る金額がもし提示されたとしたら、これはもう一般化に近づいたというふうに言っていいと思います。それぐらいを目標にとにかくみんなでほらを吹きましょう。吹いたほらの責任とるのは技術者ですから、それは皆さん頑張っていただくとして、私はそれを外側から応援しますよ。「夢がありますからいいですね」という無関心と無支持ではなくて、国民の側でもっと積極的な支持と関心、試練を皆さんに与えますから、皆さん頑張ってくださいというのが私の言い分なんです。

【的川】
 ありがとうございました。

私はスポーツの世界はテニスしか知らないんですが、日比谷のコートで六大学の試合なんかで、選手が調子が悪いときがあるわけです。そういうときは応援団ばかりが盛り上がって選手は全然盛り上がらないというのがよくあるんです。中村さんの話は身につまされるような話です。やはり試合に勝つには選手が頑張らなきゃ全然だめなんですね。応援団ばっかり盛り上がっても、応援団のコンテストをやっているわけではないので。大変いいお話をしていただきました。

最後になって申しわけありません。コリンズさん、席順はあいうえお順に並べたつもりだったんですが、パットリックのパがとられているんだと思います。よろしくお願いします。

【コリンズ(麻布大学)】
 麻布大学のコリンズと申します。皆さん、あけましておめでとうございます。今年は日本の宇宙政策がおもしろくなる年になってほしい。

 経済学者がいま日本にいれば、一番のポイントは日本経済の再生ですね、世界の先進国の中で一番ひどい状態に落ちた経済ですね。なぜかという理由はわかり易いでしょう、10数年間違っている政策を続けたために古い産業の過剰供給が多くなりました。したがって日本経済の中で現在赤字活動が多過ぎて、黒字活動が少な過ぎる。それで必要な対策もわかりやすい、その反対を実行することです。赤字活動を減らして黒字活動を増やさなければならない。問題は赤字活動をしている人はやめたくない。納税者のお金を使って、その赤字活動を続けたい。もちろんそうすると日本経済の再生は無理です。私は、イギリス人として同じような状態を既に見たことがあります。イギリスの80年代ですね。サッチャー総理大臣は、79年総理大臣になっています。そして今、小泉総理はサッチャーさんの名前をよく使っていますね、同じことを言いまた。それにみんな文句を言いました「無理、無理、無理」と。いろんな条件で厳しい政策をして、ほとんどの国営産業を民営化して、失業率は10%に上がりました10%が10年間続きましたみんな、「イギリスは終わりだ」と。ところが今、イギリスの経済はヨーロッパで一番元気です。失業率は30年ぶりに低いし、まだ毎年落ちている。初めて日本より少なくなった。それで、まずは厳しい政策はあきらめないでください。

図7
(図7)
図8
(図8)
図9
(図9

 今日の話との関係ですが、私たちにとって残念ながら宇宙活動のほとんどは赤宇活動です。旧科学技術庁が毎年二、三千億円使って、今まで3兆円を投資してきました。ビジネスで3兆円投資すると、毎年3兆円ぐらいの売り上げ高のビジネスになりますよね。これが経済活動の基礎です。この図(図7)で縦軸はお金のプラスとマイナス、横軸は時問ですね。お金を入れる。投資する。それから計画がうまく実現すると売り上げ高がでてくる。そしてうまくできたら利潤を上げて、利潤は最初の投資を超える。そうすると資本は増える。それが経済成長です。問題は宇宙活動はこのとおり(図8)です。日本が特に悪いわけではないです。ヨーロッパも同じです。アメリカも同じです。世界中で毎年3兆円ぐらいですね、先進国の宇宙局は。今まで100兆円ぐらい投資されているけれども世界中の商業としての宇宙ビジネスは、2兆円ぐらいです。日本の場合は積算すると3兆円投資したが、毎年のほんとうの商業的売上額は1000億円ぐらいですね。30分の1。ビジネスとしてはテリブルですね。現在の宇宙活動の担当者によると商業化はまだまだ無理だから今のパターンを毎年2,000-3,000億円を続けなければならない。しかし、このやり方は間違ってます。

 近年、宇宙旅行産業は航空産業のように大規模なビジネスになれることが明らかになりました今日いろんな興来深い話がありました先にお話にあった富田さんや野田さんのアイディアは、目的としては大賛成です。それしかないです。今からみんなどういうステップで進むのがいいですかとなると、一番いいのは、経済の観点から言えば、安くてすぐ始めることができることです。このぐらいの軌道を考えています。このようなサブオービタルの宇宙旅行を考えると、簡単で安くて、技術リスクは非常に少ないほうで始めることができます。このぐらい(図9)の垂直離着陸機をつくると、開発費は100億円ぐらいで確実にできます。必要な秒速は1キロです。再突入も厳しくない。技術の面でこれは非常にやりやすい。100億円規模で考えると、最近ギャラクシーエクスプレスの話がありますね、何百億円で小規模衛星を打ち上げるシステム。しかし、はっきり言って黒字になることはほとんど無理ですね。経済学者の話はちょっと厳しいですけど、正しく話さないと、経済成長は戻らないです。ヨーロッパのアリアンを見てください。1兆円ぐらいの開発費が投じられました。そしてシェアは5割ですが、赤字です。だから、衛星を打ち上げることは、ロシア以外は赤字しかないと思います。ところが、例えば、数人乗りで高度100キロまで行けるロケットを考えると、開発を始めることができます。皆さんは覚えているかもしれないけど、数年前、ペプシという会社が、サブオービタルの旅の宣伝しました。65万人の申し込みがありました。数分の無重力状態の宇宙を見るという、ほんの少しの宇宙の旅でも、非常な人気になりました。

図10 図11 このサブオービタルの旅は、どこまで安くなるのか。それはもちろんいろいろな意見がありますけれど、軌道にいくことに比べて、必要な燃料は50分の1くらいで、建造材料は少なくてよい。そして、今宇宙研の再使用型ロケットモデルのように、1日数回飛べる状態になります。だから、非常に現実的です。安くなることは、重要な「てこ」となります。そして、いろいろな国で、ドイツとかアメリカとか、毎年100万人規模の人々が乗るようになったら、ひとり30万円ぐらいになるんじゃないかな。そうすると宇宙旅行は非常に面白いビジネスになるでしょう。これ(図10)の横軸はフライト数でたて軸は秒速で、0から8キロ、周回軌道はこの8キロに当たります。軌道までの有人フライトについては、今の宇宙産業の考え方は、まずは再使用型衛星打ち上げロケットをつくりましょうということですね。その問題点は次のとおりです。現在、使い捨てロケットは100億円です。再使用型ロケットは開発費が高いから、最初からその費用も考えると、値段のオーダーは使い捨てとあまり変わらない。また、衛星の打ち上げ需要は少ないです。去年は世界中の商業打ち上げ回数は17じゃないですか。ときどき50ぐらいの年もありますが、一般に少ないですね。

 ところで、宇宙旅行を考えると専門家は航空産業にいます。航空産業は、今、毎年15億人を運んでいます。安全性とかそういった基準は全部決まっている。もう、世界中の運用基準や法律、保険会杜などのシステムが存在している。宇宙産業は、これらのシステムを最初からつくる必要はないです。ただし、その安全性の基準はどこから来るかというと、便の数です。新しいボーイング777は、お客さんを運ぶ前に約1,000回飛ばなきゃならない。そのぐらいの厳しさです。安全性は統計に拠ります。ところで、サブオービタルの再使用型ロケットを考えると、秒速1キロぐらいのロケットでは人を乗せる前に、何百回、何千回と飛ぶことは考えられる。安いからです。それと、先程のペプシの例のように需要は見込まれますので、数百回飛んだら、だんだんお客さんを運ぶということがビジネスになる。そして、ビジネスを通して、本来の宇宙旅行を勉強していきます。運航会社、旅行会杜、広告宣伝会杜、保険会杜、その規制をする航空局などすべての会社にとって勉強になります。周辺のシステムはもう待っているけど、宇宙旅行を本気でしようというグループは未だないですね。

 次に、20世紀の航空産業を前例として考えると(図11)、100年前には、一人も飛行機に乗ったことがなかった現在は毎年15億人、最近のテロ事件問題でちょっと低くなったけど、それでも毎日400万人が飛行機に乗ります。1902年にそれを予測したら、みんなから狂っていると思われたでしょう? それに比べて現在、宇宙旅行はもう40年の歴史があります。今から早い成長で大規模ビジネスになることは、100年前の航空産業に比べてみても非常に現実的じゃないですか。

 ところで皆様ご存知かもしれないですけど、日本航空協会は去年、宇宙旅行研究会をつくりました。それは非常にいいことです。すばらしいと思いますけど、日本の航空宇宙産業のメーカーにとっては注意も必要です。なぜかと言うと、航空産業、運航会社は国際的です。彼らは三菱の飛行機を運行するわけではない。ボーイングとエアバスです。だから、例えばヨーロッパかアメリカで旅行用小型サブオービタルビータルが出てくると、運行会社はそれを買ってさっさと運航するでしょう。日本が技術の完成を待っていては遅れをとり、結局会社の損になるだけです。ご存知でしょう、日本でも宇宙旅行の概念はだんだん受け入れられてきている。非常にいいことは、宇宙開発委員会の井口委員長は宇宙旅行のことは結構気に入ったみたいですね。今後の宇宙政策ビジョン(図12)という報告の中で、宇宙旅行は大きなテーマになると書いていますけど、大事な問題があります。「30年後」という話です。それは経済の自殺です。どうして30年待つの? 今の既得権益がとても強いから、その意味なし活動だけ30年続くの? それは日本経済に悪いと思います。先の話にちょっと戻りますが、中国はもうすぐカプセル型のロケット、有人活動するロケットを打ち上げる準備をしてます。ある人は残念だ、「日本はおくれている」と。しかし、中国の活動は、意味なしです。経済学者の観点;からみると、それは40年前の冷戦時代のやり方で、納税者のお金を使って政府の人を飛ばすこと。それに比べてチトーさんの場合は意味があります。ロシアはそのプロジェクトで利潤を受けました中国はロケットに単に人を乗せてもいいかもしれないですけど、日本はビジネスをねらわなければなりません。

 ところで、日本の経済全体について、ちょっと広く考えて、何が得意かというと、精密工学じゃないですか。信頼性が高い精密工学については、特に日本のメーカーは有名じゃないですか。車産業で信頼性がー番良いのは、みんな日本のメーカーですね。宇宙旅行に必要な宇宙ホテルと宇宙旅客機とかは、日本のメーカーにとって、ちょうどいいビジネスになると思います。しかし、すぐ始めないと、チャンスを逃します。今の日本の宇宙政策は「宇宙旅行拒否政策」ではないでしょうか。毎年二、三千億円の中で、宇宙旅行はゼロ、全くゼロです。これは、日本、ヨーロッパとも同じでゼロ、アメリカもゼロです。これらの政策は全部悪いです。政策当局もそのゼロの意味は知りたくないのです。国民も知ってほしくない。宇宙局は結局、自己利益のために働く。それで宇宙旅行はやりたくないのです。宇宙旅行を認めると、その政策を書き直さなければならないし、少なくともゼロじゃない予算を出さなくちゃいけないからです。例えば、二、三千億円に対して、最初に数億円くらいでしょうか。この課題をまじめに本気で勉強しよう。

 一番大事なことは予算があること、2番目に大事なことは、航空産業と協カすることです。FAA、アメリカの航空局では、もう、そのサブオービタル便の医学的な条件まで考えています。日本でもゼロから勉強しましょうという段階はもう過ぎました。だから、私達は早くそれを認識して協力しないと遅くなります。最後、世界経済と日本経済は今同時不況が始まっているんですね。そんな中で新産業は生きる鍵です。今は宇宙旅行にとって非常にいいチャンスですけど、今後もゼロ予算が続くようだと、それは大変な間違いになると思います。以上です。

(つづく)
 

出典 : 第20回宇宙科学研究所(ISAS)システム計画研究会 −われわれは宇宙開発で何をやるか(その2)−
開催日 : 2002年1月7日
web編集日 : 2003年12月10日
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