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「新産業不足不況」からの脱出

日本経済再生へ宇宙産業構造改革の貢献
はじめに

 日本経済の現状は「新産業不足不況」といえる。現在の失業率は50年ぶりの高さにのぼり、今後更にリストラが進み増加するだろう。基本的な対策としては、過剰供給状態にある古い産業の保護を止め、新産業を創造・発展させることであろう。
 今後どのような新しい産業を発展させるべきか。政治家や官僚など既得権益を持つ者が税金を投入し造るものではなく、一般の消費者によって造られる産業が望ましい。そうすれば消費者の購買欲が需要となって新産業は発展していく。このようにして発展した新産業は経済成長に貢献するはずである。しかし、こういった新産業の発展は予測しにくいケースが少なくない。例えば、携帯電話産業である。2001年に数兆円の売上高があったこの新産業は、10年前にはここまで大規模になると全く予測されていなかった。20世紀全体で見ると、航空産業もそうである。1901年、飛行機はまだ飛んでさえいなかったのに、現在、飛行機に乗る人は年に15億人を超える。また、航空関連産業で働く労働者は一億人以上にのぼり、世界経済に大いに貢献している。

宇宙活動の商業化

 米航空宇宙局(NASA)や日本経団連などが宇宙商業活動の中で最も大きい規模に発展する可能性があるのは宇宙旅行サービスであると1998年に発表した。既にアメリカ人のデニス・ティトー氏が20014月、初の宇宙観光旅行を実現させた。このように宇宙活動の商業化を進めれば、20世紀に航空産業が歩んだ発展の道を宇宙観光産業も歩む可能性は大いにある。それにもかかわらず、G7各国の宇宙局は毎年3兆円の予算を商業化の為にではなく、公共工事のような損益を無視した活動に使っている。
 日本の宇宙局はどうかというと「宇宙旅行拒否政策」を行っている。宇宙観光産業が航空産業のような大規模な新産業になるのは経済的に望ましいことだ。しかし、その研究予算は、経済的価値のほとんどない活動に使用し、採算が合わず赤字となった分を納税者が負担している。これは国民にとって大きな損害だ。
 科学技術庁(現文部科学省)は、この十数年間に宇宙用技術開発に対して約3兆円を使用した。宇宙商業活動以外の一般的商業活動なら同規模の投資をすると年3兆円の売上が出る。現在の宇宙商業活動は利益をほとんど出していない。政府が行う宇宙開発の経済的効率が非常に悪いことがわかる。
 現在の宇宙開発の主なプロジェクトは利潤を全く得ていない。まず使い捨て型ロケットプロジェクト。世界の人工衛星打上げ市場は小さく、成長していない。その為、欧州製アリアンロケットは全世界のロケット打上げの半分を担っているにもかかわらず赤字運営から抜け出せない。このような状況の中で、アメリカ、ロシア、中国もロケット打上げのシェアを伸ばそうと競争している。まだ実績のほとんどない日本のH2Aロケットでは利潤を得ることは難しい。又、国際宇宙ステーションプロジェクトはどうかというと、目的が商業ではなく、政治的なものである。そのため利用者は、政府予算を使用することの出来るごく一部の人達で一般のビジネスマンや科学者などはほとんど使用しない。利潤とはかけはなれたプロジェクトである。
 近年、日本でも徐々にではあるが宇宙観光と言う概念が受け入れられるようになった。宇宙観光産業実現の為に今まで開発されてきた宇宙技術が利用されれば、宇宙活動自体が利潤を得ることができ、宇宙政策は経済成長に貢献するというものである。宇宙政策を決定する最高機関が宇宙開発委員会である。井口雅一同委員会委員長も「宇宙旅行は確実に市場性が見込める」と述べている。
 航空宇宙産業や航空宇宙技術など航空宇宙という言葉はよく耳にするが、実際、宇宙産業と航空産業は全く別で、共同活動はほとんどない。しかし、宇宙旅行サービスを実現する為には何よりも宇宙産業と航空産業の協力が必要である。毎年15億人の顧客を持つ商業航空産業の経験が宇宙産業の発展のためには不可欠だ。
 宇宙旅行に使用する再使用型ロケットは開発費や運用費が非常に高いと思われている。これはアメリカのスペースシャトルや各国の使い捨て型ロケットを製造・運用している人々の考え方が広く一般に受け入れられているためだ。しかしこれは全くの誤りである。スペースシャトルや使い捨て型ロケットと再使用型ロケットの違いは、戦闘機と旅客機の違いに相当する。旅客機は戦闘機ほど開発費や運用費がかからず、利潤を得ることが出来る。再使用型ロケットも同様になるだろう。NASAでも宇宙旅行について報告論文を発表している。再使用型ロケットは有用でコスト面での問題も少ないことがこの論文から読み取れる。この中で、日本ロケット協会(JRS)の宇宙旅行用再使用型ロケット「観光丸」を参考にしていた。「観光丸」の研究はこのように外国において高く評価されているが、日本での評価は低く、政府から予算は出ていない。
 高度約400kmのスペースシャトルが飛行するコースを低軌道と呼ぶのに対して、高度約100kmを頂点とする弾道飛行コースを準軌道(サブオービタル)と呼ぶ。準軌道を飛行する再使用型ロケットは開発が比較的容易で2005年までに完成可能である。まず宇宙旅行の最初のステップとして、低軌道を飛行せず準軌道を飛行することが考えられている。この準軌道便は弾道飛行であるため宇宙にいる時間はほんの数分間のみとなるにもかかわらず、搭乗希望者は多く、既に旅行会社に申し込みをしている。又、準軌道用再使用型ロケットは軌道用よりも技術的に簡単な分、開発費が少なくてすむ。おおよそ現在の宇宙開発予算の一割程度ですむのだが、政府が行う「宇宙旅行拒否政策」のためこの計画実現に予算は出ていない。

2001年版「宇宙政策の長期ビジョン」

 文部科学省が2001年にまとめた「宇宙政策の長期ビジョン」の中で、宇宙旅行実現は最大の目標に掲げられた。こういった政策決定の鍵を握る井口雅一宇宙開発委員会委員長が宇宙旅行の重要性を認識しているということは以前に比べ大きな進歩だといえる。ただこの中で「宇宙旅行の実現は30年後になる」と言明されていた。これは致命的な遅さである。更にこの政策には計画面・経済面において大きな欠点があり、もしもこの通りに実行されると日本の宇宙観光産業実現は遠のく。その欠点をあげる。

1)ロシアではある企業が、四十数年前に設計したソユーズロケットを使い20014月宇宙旅行サービスを開始した。古くから使用されてきたロケットを利用するため事業にかかる費用は安く済み、この会社は利益をあげることができた。今後、宇宙観光用軌道上滞在施設「ミニステーション」を100億円で造る計画がある。現代は「経済超競争時代」である。新産業における競争で成功するためには早期参入する必要がある。もし、日本の宇宙産業が宇宙観光産業実現を30年後まで待つとすれば成功するチャンスはもう残っていない。

2)中国は、軍事ミサイル産業の規模が大きいため、使い捨て型ロケットの経験も豊富にある。米ソが冷戦時代に用いていた手法である使い捨て型ロケット使用「有人宇宙飛行計画」を近年、実行に移している。従って使い捨て型ロケットの分野で日本が中国に勝つことは不可能である。しかし、再使用型ロケットという分野になると日本の方が有利になる。その理由は中産階級の規模にある。宇宙旅行サービスが始まるとその顧客の主要層は中産階級と呼ばれる人々になる。なぜなら旅行費用が23百万円になるとみられるためだ。中産階級の規模は現在、日本のほうが中国より大きい。顧客が多いぶん、宇宙旅行に対する需要も大きく再使用型ロケットの必要数も増える。しかし、30年後には中産階級の規模が逆転してしまう。そうなると今日本の有利な点が全て中国の利点となってしまう。

3)日本の航空会社は熾烈な国際競争の中にいる。日本製などにこだわらず、米ボーイング社や欧エアバス社製の飛行機を購入し運行している。再使用型ロケットを運行する時、30年も日本製ロケットが完成するのを待たず、外国製ロケットを購入するだろう。これは経済政策上ひどく悪い。興味深いことに、日本の航空産業は宇宙産業より宇宙観光旅行に関心が強く、宇宙産業が宇宙観光旅行の実現をまだ考慮していない時期に日本航空協会が宇宙旅行研究委員会を設立した。

4)この宇宙政策の中で準軌道については全く無視されている。低軌道便を運行するには準軌道便の経験が必要だ。準軌道便に使用される再使用型ロケット機の開発に対しては、日本宇宙産業がこれまで重点をおいて開発してきたミサイル型無人使い捨てロケットの経験よりも、第二次世界大戦中に運行されていた有人ロケット飛行機の経験の方が役立つと思われる。こういった過去の経験を考慮した上で宇宙観光産業開発計画を立て、宇宙政策を作成すべきだ。

5)現在、宇宙観光産業開発のために政府予算は出ていない。従って、この政策どおりに進むと今後30年間現在行っている経済的価値の低い宇宙活動を継続することになる。宇宙活動に対する今の政府予算は年23千億円なので、30年間継続すると69兆円にのぼる。これは全て納税者の負担となるのである。また、このような利益の伴わない事業では、企業が宇宙の商業利用に参加する意欲を持たなくなるため、日本経済への損失は数十兆円規模となるだろう。この政府予算の配分の仕方は非常に悪く経済政策として劣悪だ。

6)宇宙政策は日本経済再生の為に活用されるべきだ。宇宙開発を担当する団体は、日本経済の危機的な現状を無視し、15年以上も前に科学技術庁(現文部科学省)の官僚が作った計画を実行しようとしている。彼らにとっては、既成の活動を継続させることが最も望ましいのだ。それより、もっと革新的に宇宙における一般者向きサービスを実現させ、経済活性化を計るほうが遥かに価値が高い。

マクロ経済の観点

 世界経済の現状を見ると、中国など急速に経済成長している国から先進国へ安価な輸入品が増加しているため、先進国の製造業者は雇用を削減しなければ生き残れなくなっている。1980年代、ヨーロッパとアメリカで日本からの輸入品に対する貿易摩擦が起こった。その不満の表現として、当時、クレッソン・フランス総理大臣は「フランスの第一の敵は日本だ」と演説した。しかし今後は、日本の十倍の人口がある中国から安価な輸入品が津波となって先進国へ押し寄せてくる。大きな雇用問題を引き起こすだろう。
 この問題に対する有効な対策は新産業の創造・発展しかない。20世紀を振り返ると、初期は農業・採炭業・織物業、交通機関の汽車などを仕事に持つ労働者が多かったが現在大きく減少した。代わって、通信・エネルギー・ホテル・電子製品、車・航空など運輸業が発展しこの分野の労働者は増加した。新産業は雇用を生み出してきた。
 日本のように経済的に豊かな国では、ファッションや旅行などに多額のお金を使うためエンゲル係数(収入における食費の割合)は低くなる。こういった社会では発展途上国からの安価な輸入品や機械化で人手のかからなくなる農業・製造業といった第一・第二次産業よりも運輸・通信・サービス業といった第三次産業が発展する。この中で、旅行・ホテルといったサービス産業は飛行機・電車・ホテルの製造・建設業務を付帯するため、関連する多くの雇用を生み出し低エンゲル係数社会の経済を引っ張る。飛行機やホテルといったものは政治家や官僚が国民に製造・建設を義務付けるものではなく、消費者がそれを利用したいと希望することから造られる。サービス業は消費者の裁量に依存しているといえる。近年行ったアンケートでも結果は顕著に表れ、多くの消費者は海外旅行など経験をすることに多額のお金を使うようになった。こういった時代の流れの中で宇宙観光産業は有望な新産業だと思われる。それにもかかわらず、政府が宇宙観光旅行拒否政策を行うのは重大な過失であり、日本経済の新産業不足不況を助長している。

まとめ

 これまでの説明通り、宇宙活動が商業化していくことに政府や官僚など既得権益の保持者が強い抵抗となっている。今まで宇宙開発を担当した科学技術庁(現文部科学省)は、経済成長に対する責任がなかったので経済的価値の低いシステムを構築してきた。しかし、日本経済再生の為に重要なことは、これまで行ってきた公共工事のような宇宙政策に税金を投入することではなく、21世紀に大規模な新産業になる可能性のある宇宙観光産業の発展に投資することである。
 これから先、政府が前例のない危機的な経済状況の中で、今まで通り経済的価値の低い宇宙活動に年23千億円の予算を投入するとはとても思われない。もっと利益を得ることの出来る活動に投資するはずである。今まで政府は、経済的観点から見ると非常に悪い結果しか出していない宇宙政策を行ってきたが、今後は経済政策の責任者が宇宙政策を担当すれば、商業化が加速し日本経済再生に大いに貢献できるだろう。

編者感想

 第一に、準軌道というステップを踏みつつ、低軌道を飛行する事の出来る再使用型ロケット機を造ることである。そうすれば、ある人は政治に、ある人は軍事に、またある人は科学に利用するだろうが、一般人は商業として利用する。21世紀の有望新産業である宇宙観光産業も再使用型ロケットの開発によって初めて生み出される商業活動の一つである。宇宙旅行サービスが始まれば、我々は宇宙観光旅行を楽しむだけでなく雇用創出、ひいては経済再生という面からも利益を得ることが出来る。
 例えると、食材(再使用型ロケット)を、様々な過程を経て調理(開発・事業企画)し、出来あがった料理(宇宙旅行サービス)を食べて(利用して)、我々の生きる源とする(利益を得る)。ごく自然で、道理にかなった、一番重要な人の為に宇宙を利用していると、私は思います。

参照文献

1) O'Neil et al, 1998, "General Public Space Travel and Tourism", Nasa/Space Transportation Association, NP-1998-03-11-MSFC, also available at:
http://flightprojects.msfc.nasa.gov/pdf_files/genpub2.pdf
 
2) 経団連、 1998年、 「スペース・イン・ジャパン」、 宇宙開発利用推進会議、 11頁。
 
3) 2001年、 「研究開発機構:費用対効果の視点を」、 読売新聞、 9月29日、 2頁。
 
4) 2001年、 「30年後に宇宙旅行実現」、 日本工業新聞、 10月8日、 6頁。
 
5) P Collins & Y Funatsu, 2000, "Collaboration with Aviation", Acta Astronautica, Vol 47, Nos 2-9, pp 635-646.
 
6) K Hanson, 2001, "Japan Tests RLV Prototype", Space News, Vol 12, No 27, p 4.
 
7) 今井丈彦、 2001、 「21世紀のエジソン達・夢の宇宙旅行がついに実現!?」、 日系ビジネス、1月8日、 p 9.
 
8) 2001年、 「中国:技術立国」、 日本経済新聞、 7月11日、 1頁。

著者/発表者 : パトリック コリンズ
編者 : 平井 大輔
発表日 : 2001年12月14日
編集日 : 2003年1月10日
web編集日 : 2003年11月21日
発表場所 : 政策分析ネットワーク 「政策メッセ2001」
原文 : 「新産業不足不況」からの脱出へ   宇宙産業のリストラクチュアリングの貢献
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