宇宙旅行の展望

 宇宙産業の未来に興味をお持ちの方々が集まられたこの会議(第4回FAA商業宇宙輸送定年会議)で演説できることを大変うれしく思います。経済学者のコメントが宇宙産業の会議で、必ずしも良く受けとめられないのは遺憾なことです。我々経済学者は「この活動は、する価値があるのか?」というようなポイントに的をしぼった質問をする傾向があります。でもこれは重要なことです。無駄な活動を減らし、改良することにつながります。そうして経済成長を促進するからです。遠慮無く言わせてもらうと、“宇宙”は大変貧しい経済活動の記録を残しています。宇宙開発のコストは非常に高く、収入は極めて低い。世界中の納税者が毎年250億ドル(約2兆5千億円)かけて膨大な‘赤字’をうめています。これは変えられることだと私は思っています。宇宙は、勢いと人気があり、儲かるビジネスエリアとなることができます。世界経済のブラックホールではなく宝石になりうるのです。しかし、それには適切な政策が必要です。現在では全く行われていません。宇宙政策の正しいモデルを見つけるには、歴史を参考にするのが有益です。

 19012月、百年前を想像してみてください。アメリカではマッキンレー大統領が二期目に入ったばかりでした。馬車や鉄道、電信の時代であり、その7年後にヘンリー・フォードが最初の‘モデルT’自動車を作りました。(結局モデルTは1500万台作られた。)もちろん当時は飛行機など飛んでいず、有名な科学者は‘空気より重い飛行機’が人を乗せて飛ぶことなど不可能だと‘証明’さえしました。ライト兄弟が直面した‘くすくす笑い’を今日想像できるでしょうか?しかし、1903年、この二人の起業家は、人が操縦する、エンジンを積んだ飛行機を飛ばしたのです。そして100年後の今、毎年10億人以上、毎日300万人以上の人が飛行機に乗っています。結果として、こんにち、飛行機は重要な経済的意味を持ちました。年に約1兆ドル(約100兆円)の総収入を生み出します。世界中での旅行や観光産業の成長、医療サービスの発展などを通して、直接的に1000万人、又間接的には1000万人以上に雇用を与えています。空の旅は社会的にも地上の生活を変えました。世界中に人々を運び、外国に住む我々の多くがこの会議に出席できるようにさえしました。しかし、ある意味そう遠くない1901年には、乗客を乗せた空の旅など考えにも及んでいなかったのです。

 それに比べると、2001年における宇宙を旅行するというアイデアは、いくつかの理由から、はるかに受け入れやすいことだと思います。まず、人は既に宇宙へ行き、帰ってきています。40年間の経験があります。次に、数百人の宇宙飛行をした人々の経験から、宇宙へ行くことに深刻な生理学上の問題は存在しないと示されたことです。軌道まで行き帰ってくる事に過大な負荷はかからないし、宇宙酔いに対しては、車酔いや船酔い、飛行機酔い同様、一般的な薬物治療で十分効果があります。そして最後に、宇宙と地球を往復するのに使う機体の開発や、地上の設備など、宇宙旅行の運営を始めるのにかかる投資額は、数百億ドル(数兆円)でもましてや数千億ドル(数十兆円)でもなく、数十億ドル(数千億円)でよいということです。アメリカの納税者は一国だけで、毎年140億ドル(約1兆4千億円)を政府の‘宇宙計画’に払っています。他の国々では、全部あわせて一年間に110億ドル(1兆1千億円)です。宇宙旅行を始める為の投資を本気でしようとしていないのは明らかでしょう。

 宇宙での活動の中で、宇宙旅行ほど成功する可能性の高いものは他にないと気づくことは重要です。現在、商業宇宙活動は成長はしていますが低い需要と過剰な供給が目立ちます。衛星打ち上げや地球観測のようなサービスはビジネスにならないのは明らかで、これらは本日までに1兆ドル(約100兆円)程度の累積的な政府資金の投入によって成り立っているのです。ですから、我々はこう思うのです。何故とっくに宇宙旅行ができるようになっていないのか?この非常に魅力にある活動がなぜ今も本気にされずほっておかれているのか。

 この理由は基本的に宇宙活動開始時の歴史にあります。西側政府の宇宙機関は、冷戦時に‘宇宙ミッション’の遂行によってソビエト連邦に打ち勝つため設立されました。多くの政府機関と同様に宇宙機関は独占的であり、他の政府機関と違うところといえば一般社会にサービスを供給しないため非常に監督がゆるいということです。対称的なものFAAが考えられます。航空交通に遅れが生じた場合や重大な事故が起こった場合、又は航空サービスに何らかの欠点が見つかった場合、一般社会やメディアはFAAに対し激しく抗議し‘良い意味でのプレッシャー’がその問題にかかります。しかし、NASAやその他の宇宙機関は違います。彼らと社会との唯一の接触は、彼らの業績を書いた新聞記事や特別な活動を報じるテレビだけであり、一般社会にとって評価しづらいものです。

 そのため宇宙機関は社会の要求に対してほとんどプレッシャーを感じず、どんな経済学者でも「独占状態を保つためのもの」と断言するであろう己の利権を守りがちです。宇宙旅行という分野で、NASAが行ってきた事はこの典型です。NASAがこの40年の間に出版した中で、最も経済的に価値のあるレポートは[NP-1998-03-11-MSFC General Public Space Travel and Tourism]です。このレポートでは「宇宙旅行はいつでも始めることができたし将来は最大のビジネスになるだろう」とし、更に宇宙旅行ビジネスを起こすよう推薦しています。しかし、このレポートは一般人でもNASAのホームページの中で利用できると、NASA Goldin長官とGarver副長官によって約束されているにもかかわらず、あなたには見つけ出すことはできません。NASAの膨大な情報の中で、どこにそのレポートが存在するのかヒントもないのです。何故、NASAで長年働いているスタッフはアメリカ国民にこのレポートを読んでほしくないのでしょうか?理由は恐らく、一年間のNASA予算の、ほんの一部のコストで宇宙旅行サービスが開始できると、メディアや政治家、教師、一般市民に知られたくないためです。

 これはこのレポートを隠していると言っても言い過ぎではないと思います。前に私が言ったように、当然このレポートを読む権利があるアメリカの納税者が簡単に手に入るようにNASAがしないならば、アメリカ国民の為に働いているとは言えません。アメリカの納税者の経済的利益の為にではなく、NASAが現在持っている権利を守るために働いていることは、一人の経済学者として私はとても悲しんでいます。

 その多くの著書の中でアダム・スミスはこう言っています。「政府組織は社会を‘だまし、圧制する’傾向を必然的に持っている。」NASAは先ほどのレポートの中で「宇宙でもっとも大きなビジネスになるであろう」と自ら言った活動に何も予算を当てず、一方で、それほど可能性の無い活動に膨大な税金を費やしています。NASAは法律によって商業的な宇宙活動の発展を助けるよう求められているのです。こういう理由でNASAはこの新時代を築くレポートを隠し、その推薦を実行することを拒絶しているのです。

 ここで、もう少し楽しい話題に変えましょう。宇宙旅行はどのくらいの規模に成長するでしょうか?批判家がよく言うように、限られた金持ちだけの活動にとどまるのでしょうか?答えはNOです。宇宙旅行に対する需要と供給の調査をしたところ、宇宙旅行は飛行機が大ビジネスに成長した時のようになると信じられる理由を与えてくれました。まず最初に私と同僚で行った、日本、カナダ、アメリカにおける市場調査は宇宙旅行にとても人気があることを示しました。ほとんどの人が宇宙へ行ってみたいと言い、その為には給料の何ヶ月分かを払ってもかまわないと答えました。もし若い世代の文化に興味があるなら、彼らが小説的で、刺激的なものを熱望していることが解るでしょう。この世代の中では、宇宙旅行サービスの市場は無限です。これが、宇宙旅行がブームとなるであろうと信ずる理由です。

 数字的に考えると、先進国の人口の10%が一度の宇宙旅行に2万ドル(約200万円)払うとすると、2兆ドル(約200兆円)の市場となります。これはこの市場規模を小さく見積もっているのであってもっと可能性があります。世界で急速に人口が増えている中間クラスの人々も含め、50%以上の人が宇宙旅行に行きたいと言っているのです。その内、多くの人が一度ではなく何度か行くことを望んでいます。

 さて、日本ロケット協会がデザインした、乗客を軌道まで運び帰還させる宇宙旅客機、観光丸は広く知られています。もっとも、彼らが見積もったコストは非常に高いものですが。その見積もりとは、軌道までの往復が可能になるであろう投資額は約120億ドル(約1兆2000億円)で、開始してから10年間は、旅客一人につき運賃が2万5千ドル(約250万円)というものです。それに比べて、アメリカでは観光丸より大きく、複雑な‘Venture Star’という機体を開発していますが(2001年3月計画中止を発表)、その開発見積り額は60億ドル(約6000億円)です。120億ドル(約1兆2000億円)でさえ世界中の宇宙機関が使っている6ヶ月分の金額より少ないのです。

 我々が1993年から行った市場調査に費やした金額の合計は、だいたい5000ドル(約50万円)です。同じ時期に宇宙機関が費やした金額は、1750億ドル(約17兆5千億円)で、その内、約1千億ドル(約10兆円)はアメリカ国民の税金で賄われています。納税者にとってこれが良いかどうか議論するのも馬鹿らしいことでしょう。経済的に言えば、これは財源の恐ろしく間違った配当です。

 日本ロケット協会が作ったシナリオでは、3年を超える1200回のテスト飛行を終えた後、2010年に50人乗りの‘観光丸’が宇宙旅行サービスを開始します。1年間に8機作ることで、旅客数は年に10万人になります。そうして、2020年には年に100万人の旅客となり、更に成長が続き2030年には年に500万人に達します。その頃には、次の図で示している、より進歩したサービスが始まります。

2030 SPACE BUSINESS

 この図についていくつか説明をします。

1)このシナリオでは、2030年までに4千万人の人が宇宙を訪れることになっています。つまり、中間クラスの約2%です。実際はこのクラスの人のほとんどが宇宙旅行を望んでいるのですが。

2)このシナリオどおりとなるのに必要な投資は、そのほとんどが個人領域の収入からとなりますが、2030年までに宇宙機関に税金として払うことになるであろう7千5百億ドル(約75兆円)より遥かに少ない額です。このシナリオでの宇宙旅行の経済的価値は1兆ドル(約100兆円)以上になります。

3)約2万人の人が宇宙ホテルのスタッフとして宇宙で働くことになるでしょう。宇宙ホテルは何十年かの間は宇宙で最も大きな雇用を生み出すでしょう。

4)宇宙旅行は年に1兆ドル(約100兆円)の市場となり、2050年までに今日の飛行機旅行ほどの規模になるでしょう。

 ある人は、レジャー産業は重要でないという考えから、このシナリオは難しいと感じています。つまり、機械を作ったり、ビルを建てたり、もっと‘まじめ’なことをすべきだというのです。しかし人間は進歩し、生き残るということにはそんなに力を入れなくてもよくなりました。生産する人の数の割合はどんどん減少し、それぞれの産業で労働者の数を減らすことが求められています。ですから我々は、全体的な失業の増加を防ぐ新しい産業が必要になります。20世紀には、多くの新しい産業が生まれました。現在、先進国のほとんどの人がそういった新しい産業の中で働いています。その代表的なものが航空産業です。議論の余地無く、宇宙旅行は飛行機旅行のように大きな産業になれると信じています。その場合数千万の仕事が生まれるでしょう。今まで、ロケットの打ち上げや人工衛星など、航空宇宙技術を使ってサービスを提供している産業が、アメリカ経済に何か良いことをもたらしたでしょうか?アメリカの貿易赤字は日に10億ドル(約1000億円)以上です。アメリカで作っている商品やサービスの競争力不足が原因です。アメリカの企業は中国の企業と自転車や、衣類、テレビの製造で競うことに逆戻りしてしまうつもりなのでしょうか。それとも、まだ他の国では提供することのできないサービスを供給することで前進するつもりなのでしょうか。アメリカがどちらを選択すべきか明らかではないでしょうか。

 他の産業、特に航空を含む交通業界で政府が行ってきた補助や保護のように、宇宙旅行産業が大きくなるよう政府はこれを助けることが経済学的に望ましいです。少なくとも“政府が助ける側に存在しないなら、政府はそれに反対する存在となる。”ということにならない為にも。現在、政府は宇宙旅行産業成長の妨げになっています。投資家は政府と競合すると見られる宇宙へ行く為の機体に投資できませんし、現に投資していません。宇宙産業のリーダーが最も重要な経済的情報を隠したり、非経済的な活動に巨額の投資をし混乱を生じさせると、その事業が成功するかどうか投資家は判断しにくくなります。

 このように、政府が航空機をモデルとした新しい構成に宇宙活動を変えていくかどうかに、納税者の経済的関心は集まるでしょう。経済的価値のほとんどない政府‘ミッション’に優先権を与える代わりに、成功している商業宇宙分野の育成に優先権を集中すべきです。それにはほとんど全てを新しくすることが必要ですが、当然現状を維持しようという利権を持った人々に抵抗されるでしょう。しかし、どう新しくするのか?アメリカ経済成功の理由の一つは、古い慣習を捨てるのが上手いところにありました。政府は現存産業を守ることはなにもしない。それを怠った例が、今の日本です。古い慣習にとらわれ政府が産業を守り、不可欠な改革を遅らせています。しかし宇宙活動においては、アメリカ政府はまさにこれと同じ事をしてきました。強力な毎年の予算で、政府が選んだ一部の企業に独占を与え保護しています。NASAの予算がFAAの予算と同じくらいである事を憶えておいて下さい。FAAの予算は航空会社が払う税金によって賄われています。一方NASAは、その予算1兆ドル(約100兆円)を払ってくれる宇宙旅行産業は存在しないのです。現在、宇宙活動での出納は政府が使う以外ほとんどありませんし、宇宙旅行に関しては存在していないといえます。

 アメリカ国民の経済的利益という点から見ると、FAAは正しい考え方をしているし、宇宙機関は悲しいながらそうではありません。ASTの予算が最近2倍になったことを知りました。これはすばらしいニュースです。でもまだNASA予算の1/1000より少ないです。ASTの予算が倍になり、又その倍になって、更にその倍になるとしてもまだNASA予算の1%にも満たないでしょう。でも、ASTの仕事はNASAがしていることよりも経済的に遥かに価値があります。これが歪んだ政府宇宙資金のありかたです。

 FAAのASTは宇宙活動から利益を得る為に、宇宙旅行の開発を民間の領域ですることによって、NASAが1000回その資金で非経済的な活動をすることより遥かに経済的進歩を遂げるでしょう。もしこれが言い過ぎだとおっしゃるなら、喜んでこれに関する計算をしましょう。数字が明白にしてくれます。宇宙で最も大きくなるであろう産業の開発を助けるこの計算は大きな経済的価値を含むでしょう。

 この話題はもう続けないほうが良いでしょう。さもないと、私はASTの‘スパイ’と思われてしまいます。私は、現在高額な税金で行われている宇宙活動のとんでもない無駄使いにほぞを噛み、そのようにして成りたっている宇宙産業界に断固として反対の立場を取る経済学者です。FAAや日本で、何人かこのことを理解してくれる友人が見つかり喜んでいます。航空産業はこの分野で、恥ずべき宇宙産業の代わりに、リードをとりはじめています。次に就任するNASA長官は宇宙旅行の歴史に新しい一ページを加えてくれるでしょう。彼、又は彼女にとって地球低軌道まで往復するコストを下げることが経済的に最も重要な問題なのです。

 ある人は、宇宙に興味を持つことは‘つまらないこと’といって、宇宙旅行の話を嘲笑します。私は心から同意しかねます。経済学者にとって、消費者サービスはとるに足らないことではありません。これが経済を駆き立てるからです。もしアメリカ人が年に2万5千ドル(約250万円)消費しなかったら、平均収入が年2万5千ドルにならなかったでしょう。政治家や公務員が税金を使うことは、個人が自分のお金を使うことより価値がある。こういったことを‘高い目的’とする政府のばかげた考えは危険です。ソビエト連邦はこの嫌悪すべき思考を持っていました。アダム・スミスはこのことについてもレーザーのように明確に書いています。

 “王や大臣が個人の経済を監視し、彼らの消費を拘束しようとするのは、最も見当違いなことである。例外なく、社会で最も浪費しているのは王や大臣自身だからだ。”

 ここ200年間で、この状況は何も変わっていません。政府は民間宇宙活動に1兆ドル(約100兆円)以上使い、通信衛星などの商業活動の結果、かろうじて年に200億ドル(約2兆円)の市場が形成せれました。他の産業で同じ額の投資をすれば創出されるであろう金額の1/50でしかありません。

 さて、経済的な考え方から離れてみても、宇宙を訪れことは教育的だと広く深い意味で思います。宇宙飛行が可能な大勢の人にとって、この経験は最もすばらしいものとなるでしょう。新しい世紀の始まりに、このような新しいサービスを始めるのは、とても時期に適っていると思います。先進国には、経済の発展に伴って起こる社会的問題がたくさんあります。それらの中で、経済の成長と共に自由な時間やお金は増え、有意義な挑戦の欠乏を招き、やがて退化していき、無意味で退屈な自由だけが人々に与えられることになります。今日、子供たちに直面する多くの問題をみると、有意義な挑戦を欠いている事が原因の一つであり、そういった子供たちを最も奮い立たせ、世界に興味を持たせるのはことができるのは、宇宙への旅を彼らに現実味を持って与えることではないでしょか。

 宇宙飛行士は学校に通う子供たちに、こう尋ねることを好みます。「宇宙飛行士になりたいですか?」これはばかげた質問だと思います。100万人の子供たちが将来宇宙飛行士になれるからです。「宇宙へ旅行したいですか?」「宇宙ホテルで働いてみたいですか?」もし代わりにあなたがこう尋ねるとすると、100万人の子供たちが将来可能になるであろう未来を想像し、特に10歳くらいの子供たちはこのことにとても興奮するでしょう。ですから私は、宇宙旅行の未来には輝くゴールが待っていると考えています。若い人にとっては特別なアトラクションであるし、多くの人の生活に意味と挑戦を与え、良い影響をひろめるでしょう。宇宙旅行によって宇宙という辺境が開拓された結果、世界にはかり難い有益な文化的影響を及ぼすであろうと思います。

 2,3人の政府に雇われた宇宙飛行士が宇宙へ送られても文化的な影響など起こらないだろうし、それが火星着陸であっても同じ事でしょう。私はアメリカとソビエトは全く違うと教育されてきました。しかし、驚くべきことに、現在宇宙旅行ができるのはアメリカではなくロシアであり、アメリカでは政府の‘宇宙飛行士’が宇宙で‘ミッション’をするのを、テレビで見られるぐらいです。なんという驚くべき逆転でしょうか?(ロシアは既に特別高い料金をとるでもなく、1億ドル(約100億円)以上を政府に収めています。これは、宇宙での最も発展が予測されるビジネスは宇宙旅行であるという良い例である。)

 数百万の人が宇宙を旅行できるようになり、数千の人が宇宙ホテルで働くようになるという情景は、遠い将来のことではなくて、これはまさに今始まろうとしている現実なのです。この活動の成長は文字どうり無限です。他のところでいったように、地球低軌道への旅行は、宇宙開発をひっぱる重要なステップです。これによって宇宙に市場が形成されるからです。ぱっときませんか?どこに市場やビジネスチャンスがあるのでしょうか。軌道上に浮かぶホテルサービスには多くの補助的な産業が付随するでしょう。窓のメンテナンスサービスはどうでしょうか。多くの大きい窓は航空機のように、宇宙ホテルにとって重要な要素となります。これらのメンテナンスがいきとどかないと致命的な事故につながります。ですから、現在航空機の窓をメンテナンスしている会社は新しく宇宙での事業を持つことになるでしょう。この他にいくつでも例はあげられます。

 アメリカ民間技術者協会は毎年、素晴らしい宇宙会議をアルバカーキで開いています。彼らは月面上におけるビルの建て方や、酸素、鉄、アルミニウム、ガラス、その他様々なものを月の物質から作る方法を研究しています。彼らはこういったことを全て知っていますが、この仕事にはまだ市場がありません。宇宙機関はこういった研究を活用する用途を持っていません。ですからこれは現在、彼らの好きでする仕事でしかないのです。“いつかこれが役に立つときがくるだろう。”と考えながら彼らは研究しています。軌道への旅行は、月輸送の市場を創造します。民間人の宇宙旅行が始まり宇宙ホテルができ始めの頃は、年に数千トンの氷を地球低軌道へ運ぶことになるでしょう。軌道を離脱する為の燃料や、ホテルに供給する為の物として必要になります。地球から水を打ち上げるコストを、だいたい$100/lb(2万円/1kg)程度まで下げなくてはならないでしょうが、それは可能だと技術者たちは言っています。ですから、軌道への旅行でコストを下げることは月の商業開発の最初の一歩となり、その後月旅行へとつながるのです。

 個人的に‘インターネットの誇大宣伝’を信じていません。スクリーンの前に座り、見ている。ただそれだけの未来になるというのです。ほとんど全てのメディアが21世紀はこうなるだろうと言っています。しかし、それで本当に満足できるでしょうか?私は宇宙旅行の発展はもっと深い意味を持つと思っています。それは新しい文明を創造するのです。20世紀には飛行機が登場しそれまでの文明を変えてしまったように、21世紀は宇宙旅行が文明の核となるでしょう。世界中で数千万の仕事を作り、世界経済は一様に良くなるでしょう。

‘黄金時代’がやってくるのです。我々がその鍵を握り、どうすればいいかその方法も知っています。とても慎み深い、ほんの少しの投資が必要なだけです。もし今この方向で、前向きな一歩を踏み出さないと、数十年の不必要な遅れをとることになるでしょう。無駄な宇宙活動に年に250億ドル(約2兆5千億円)ものお金を使い続け、宇宙旅行産業の発展に何の投資もしないのであれば、決して黄金時代はやってこないでしょう。現存産業の過剰供給と新しい産業の欠乏の為、今、世界経済に暴風雲がたれこめています。これは悲劇的な結果を招くことになるでしょう。そうなる前に、新しく有望な宇宙旅行産業を育てるべきです。

 それではどうもありがとうございました。

著者/発表者 : パトリック コリンズ
翻訳者 : 平井 大輔
著作日 : 2001年2月
翻訳日 : 2001年3月27日
編集日 : 2003年10月13日
発表場所 : 第4回FAA商業宇宙輸送予測会議年次会議
(4th Annual FAA Commecial Space Transportation Forcasting Conference)
原文 : The Prospects for Passenger Space Travel